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神戸地方裁判所 昭和53年(ヨ)500号

債権者

南中弘

右訴訟代理人弁護士

麻田光広

丹治初彦

分銅一臣

債務者

株式会社山手モータース

右代表者代表取締役

大久保忠行

右訴訟代理人弁護士

奥村孝

石丸鉄太郎

主文

債権者が債務者に対し労働契約上の地位を有することを仮に定める。

債務者は債権者に対し、昭和五三年六月二一日から本案判決確定に至るまで、毎月二八日限り月額一五万三、〇七六円の割合による金員を仮に支払え。

債権者のその余の申請を却下する。

訴訟費用は債務者の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  申請の趣旨

1  主文第一、四項同旨

2  債務者は債権者に対し、昭和五三年六月二一日から本案判決確定に至るまで、毎月二八日限り月額二〇万九、九〇七円の割合による金員を仮に支払え。

二  申請の趣旨に対する答弁

1  債権者の申請を却下する。

2  訴訟費用は債権者の負担とする。

第二当事者の主張

一  申請の理由

1  債務者(以下「会社」ともいう。)は昭和二一年頃設立された、タクシー約六〇台、従業員約一二〇名を有するタクシー会社であり、債権者は、昭和四一年二月債務者に雇用され、以来タクシー運転手として勤務してきたものであり、昭和五二年当時、債務者の従業員の一部で組織する、全国自動車交通労働組合兵庫地方連合会(以下「地連」という。)傘下の山手モータース労働組合(以下「組合」という。)の役員をしていた。

2  債務者は、昭和五三年六月二一日以降債権者に配車しないでその就労を拒否し続け、同年七月二四日からは債権者を懲戒解雇したと主張して債権者の従業員たる地位を争っている。

3(一)  債権者は、債務者の前記就労拒否前、長期間地連書記長の職務に従事するため会社を欠勤し、その間賃金の支給を受けていなかったが、債務者の平均的従業員である申請外大野志郎の昭和五三年四月から同年七月までの四か月間の賃金の平均月額は二〇万九、九〇七円であり、債権者もまた平均的従業員として右同額の賃金債権を有する。仮に、そうでないとしても、債権者の昭和五二年七月から九月までの三か月間の賃金の平均月額は一一万七、九九〇円であるから、右期間の債権者の支給賃金総額は三五万三、九七〇円(一一万七、九九〇円の三か月分)となるところ、その勤務日数は五二日間であるので、一日当り六、八〇七円、一当務(二日間)当り一万三、六一四円となる。従って、一か月間全日勤務(一三当務)を行ったとすれば、その賃金は一七万六、九八二円となる(債務者の責に帰すべき理由により就労不能となっているので、賃金は全労働日勤務したことを前提として支払われるべきである。)。

(二)  債権者は債務者から、毎月二一日から翌月二〇日までの一か月分の賃金を同月二八日支払を受けていたが、債務者は債権者に対し昭和五四年七月支払期分以後の賃金(同年六月二一日以後の賃金)の支払をしない。

4  債権者は、債務者からの賃金を唯一の生活手段とする労働者であるため、本案判決の確定を待っていては日々の生活すら不可能となり、回復し難い損害を受けることになる。

5  よって、申請の趣旨記載のとおりの裁判を求める。

二  申請の理由に対する答弁及び抗弁

(申請の理由に対する答弁)

1 申請の理由1の事実は認める。

2 同2の事実中、債務者が昭和五三年六月二一日以降債権者に配車しなかったこと及び債務者が同年七月二四日から債権者を懲戒解雇したと主張しその従業員たる地位を争っていることは認める。

3 同3の事実中、債務者の従業員に対する賃金支払方法が債権者主張のとおりであることは認めるが、その余は争う。

4 同4は争う。

(抗弁)

1 債務者の就業規則八一条は、「正当な理由がなく無届欠勤通算一四日以上に及んだとき」(五号)、「業務命令を不当に拒否したとき」(一四号)は懲戒解雇する旨定めているところ、債務者は昭和五三年七月二四日債権者に対し、右規定に基づき懲戒解雇の意思表示をした(以下「本件解雇」という)。

2 本件解雇の経過及びその理由の詳細は次のとおりである。

(一) 債権者は昭和五二年五月一八日から同年六月二七日まで及び同年九月八日から昭和五三年六月二〇日まで会社を欠勤したが、そのうち昭和五二年五月一八日から同年六月二七日まで及び同年一一月一日から昭和五三年六月二〇日までの欠勤は無届のものであった。

(二) 債務者は、債権者欠勤中の昭和五二年六月末頃債権者に対し、同年五月一八日から同年六月二七日までの無届欠勤の理由を書面で提出するよう求めたところ、債権者はその約二か月後の同年八月三〇日欠席届なる書面を会社に提出した。債務者は、右書面により債権者の欠勤理由が労働組合業務にあることを知ったが、労働組合業務のための欠勤は承認していなかったので右欠勤に対する処分を考慮中、債権者は、同年九月八日から出勤しなくなり、同月九日会社に同月八日から同年一〇月三〇日まで欠勤する旨の届出書を提出し、再び欠勤を続けた。

(三) 債務者は、右欠勤届に記載されていた欠勤理由のうち、労働組合業務のための欠勤は承認していなかったので、同年九月一三日債権者に対し労働組合業務を理由とする欠勤について警告するとともに、長期静養と実父の見舞看病のための欠勤について診断書の提出と期間を明らかにするよう債権者に要求した。これに対して債権者は、労働組合活動のための欠勤が慣行上認められているかのような反論をしたが、その余の点について債務者の右要求に応じなかったので、債務者は、同年一〇月三日債権者に対し、再度診断書の提出及び欠勤期間の明示を要求するとともに、就労するよう業務命令を出した。ところが、債権者は右のいずれにも応じなかったので、債務者は同月二二日再度債権者に就労するよう業務命令を出したが、債権者はこれをも無視して昭和五三年六月二〇日まで欠勤を続けたのである。

(四) 労働組合活動に専念することを目的として、その労働者について従業員たる地位を失わせずに就労義務を免除するいわゆる在籍専従制は、労働者の団結権に内在しあるいはそれから当然に派生する固有の権利ではなく、従業員について在籍専従を認めるか否かは使用者の自由に委ねられているものである(最高裁判所第一小法廷昭和四八年一一月八日判決)。そして、債務者と組合との間には右在籍専従制を認める労働協約は締結されておらず、また、これを承認するような労働慣行も存在しないのであるから、債権者の欠勤が組合役員としての職務に従事することを理由とするものであっても、これをもって債権者は債務者に対し前記欠勤並びに就労命令拒否の正当性を主張しえないものである。

(五) 従って、債権者の前記各行為は前記就業規則所定の各懲戒解雇事由に該当するものであったので、債務者は債権者を本件解雇処分に付したものである。

三  抗弁に対する答弁及び再抗弁

(抗弁に対する答弁)

1 抗弁に対する認否

(一)抗弁1の事実は認める。

(二)同2について

同(一)の事実中、債権者が債務者主張の期間欠勤したことは認めるが、それが無届欠勤であったことは否認する。

同(二)、(三)の事実中、債権者が債務者主張の期間欠勤したこと及び債権者が債務者から債務者主張の欠勤理由書の提出を求められ、債務者主張の欠勤(席)届を会社に提出したことは認めるが、債務者が、債権者提出の欠勤届によって債権者の欠勤理由が組合業務にあることをはじめて知ったこと及び右欠勤を承認していなかったことは否認する。

同(四)の事実中、組合と債務者間に在籍専従を認める労働協約の存在しないことは認めるが、その余の事実並びに主張は争う。

同(五)は争う。

2 欠勤の届出及び正当事由の存在

(一) 債権者は、昭和五〇年以来、組合の推せんによって地連の書記長に選出され、組合執行機関の決議により、特定期間は専従活動を行いその間地連より賃金補償を受けるいわゆる半専従役員として活動してきた。

(二) 債権者は、右半専従役員としての活動に従事するため従来有給休暇等を利用していたが、それでも右役員業務多忙時は欠勤が多くあり、その場合には債務者に通知したうえ勤務を休んで右役員業務に専念し、これに余裕が生じたときそのつど債務者に連絡して勤務に復していた。

(三) 本件の昭和五二年五月一八日から同年六月二七日までの欠勤も、春闘時の地連業務のためであり、債権者は会社に連絡のうえで行い、出勤可能となった同年六月には再び会社にその旨連絡して職務に復帰したが、その際債務者はなんらの異議もとどめなかった。

(四) また、債権者は、再び地連職務が繁忙になり、折からの経済不況とも相まって繁忙状態が継続したため、同年九月八日から昭和五三年六月二〇日まで欠勤したが、その当初の分については父親の看病等地連業務以外の理由があったので書面をもって会社に届け出たのであり、それ以後は専ら地連業務によるものであったので、口頭で会社に連絡し欠勤していた。

(五) 労働組合が使用者に対する団体交渉を効果的に行うためには、組合員に対する情宣活動等を恒常的、組織的に行うことなくしては不可能であり、とりわけ日本の中小企業におけるように単一企業内組織でしかも少人数従業員で構成されている労働組合が多い現状では、勤務時間中の一定程度の組合活動は必要不可欠である。このことは、本件地連のように、右小規模組合が連合体を形成している組織においても同様であり、その傘下組合員の団結を高めるためには、勤務時間中といえども組合活動に専従し、情宣活動を継続的に行うことが必要であり、ただ労働組合法にいう「利益供与」との調整のみが労働組合の存立には必要とされているのである。

このように、専従制度は、労働組合の団結権を現実に保障する構造として社会的に形成され、団結権の一内容として確立されており、憲法、労働組合法等によって保護、保障されているものと解すべきである。

(六) 従って、債権者の本件欠勤は、前記事実関係に照し無届欠勤に当らないだけでなく、主に地連役員の業務に専念することを理由にするものである以上正当な理由が存在するから、債務者主張のいずれの懲戒解雇事由にも当らない。

(再抗弁)

1 懲罰委員会の審議欠缺の違法

就業規則八二条は、従業員の懲戒を行うには懲罰委員会に対する諮問手続を必要とする旨規定しているところ、債務者に対し本件解雇の諮問をした昭和五三年七月七日の懲罰委員会は、組合の代表を委員から排除して開かれたもので、適式なものとはいえないから、本件解雇は右就業規則に違反する無効のものである。

2 不当労働行為

債務者は、従前より組合否認、組合敵視の政策を続けてきており、本件欠勤についても、当初は債権者の地連業務を営利行為と同視し、就業規則八一条六号で禁止する二重就職に該当するとして債権者を非難し、債権者が就労を申出た昭和五三年六月二一日からなんらの理由もないのに配車(就労)拒否を続けたうえ本件解雇に及んだものであり、このような経過に照せば、本件解雇は、債権者の組合活動ゆえの不利益取扱い(労働組合法七条一号)、組合に対する支配介入(同条三号)に該当する不当労働行為であり、無効というべきである。

3 解雇権の濫用

(一) 債権者の本件欠勤は地連の決定に基づきその書記長職に従事するためであったのであり、債務者は、右欠勤理由を承知したうえで、債権者が昭和五二年六月二七日まで欠勤し、その翌日から復職したのについてなんらの異議もとどめなかった。そして、債権者は欠勤するに当っては大体の期間を債務者に連絡していたのであり、昭和五二年九月八日からの欠勤についても、債務者は、遅くとも昭和五三年一月六日頃までには、債権者の欠勤が同年の春闘終了後まで継続することを十分予期できていた。

(二) 債権者は、欠勤期間中債務者から給料の支給を受けておらず、健康保険料、厚生年金等の公課の債権者負担分を毎月債務者に送金し、債務者はこれを受領していた。従って、債権者の欠勤による債務者の損害は右公課の会社負担分の出費だけであり、その額も月額一万五、〇〇〇円に満たないものである。しかも、債務者は、タクシー業務の特殊性、恒常的乗務員不足のため営業用車両には常時予備があったから、債権者の欠勤あるいは復職に伴い債務者の営業用資本(車両)の維持のための負担が現実的に左右されることもなかったから、本件欠勤が仮に無届であっても、企業の秩序維持のために債権者を企業外に排除しなければならない程の必要性はなかった。

(三) 以上の事情を考慮した場合、債権者の行為は、懲戒処分のうちでも最も重い懲戒解雇に値するものとして、企業秩序の維持のうえで会社から排除しなければならない程の非難可能性はないから、本件懲戒解雇は権利の濫用として無効というべきである。

四  再抗弁に対する答弁

1  再抗弁1の事実中、就業規則に債権者主張の如き懲罰委員会に関する規定があり、債権者主張の懲罰委員会において債権者の懲戒解雇が決議されたこと及び組合の代表が右委員に加わらなかったことは認めるが、その余は争う。

懲罰委員会の委員は従業員が自発的に選任したものであり、また、懲罰委員会規定には組合代表を委員に入れる旨の定はなく、組合との間にそのような労働協約も存しないから、懲罰委員会の決議は適法になされた。仮に、右委員会の手続に違法があったとしても、右委員会は単なる諮問機関であり、本件懲戒解雇の効力に影響はない。

2  同2の事実中、債務者が昭和五三年六月二一日以降債権者に配車しなかったことは認めるが、その余は争う。

3  同3の(一)ないし(三)の事実及び主張は争う。

債務者は、債権者の本件欠勤により、公祖公課だけでも一か月当り一万五、〇〇〇円の損害を継続的に蒙り、車両、車庫、事務職員等の営業用資本の維持に関しても不要の支出をさせられた。

第三疎明関係(略)

理由

第一当事者

申請の理由1の事実は、当事者間に争いがない。

第二本件解雇及び解雇事由の存否

一  本件解雇

債務者の就業規則八一条は「正当な理由がなく無届欠勤通算一四日以上に及んだとき」(五号)、「業務命令を不当に拒否したとき」(一四号)をそれぞれ懲戒解雇事由として定めていること及び債務者が債権者に対し右各事由の存在を理由に本件解雇の意思表示をしたことは、いずれも当事者間に争いがない。

そこで、以下右各解雇事由の存否について検討する。

二  就業規則八一条五号事由

1  債権者が、昭和五二年五月一八日から同年六月二七日まで欠勤(以下「第一次欠勤」という。)した後、さらに同年九月八日から昭和五三年六月二〇日まで欠勤(以下「第二次欠勤」という。)したことは、当事者間に争いがない。

2  右争いなき事実に、(証拠略)を総合すれば、以下の事実が疎明される。

(一) 債権者は、会社に入社後、昭和四二年から昭和四九年までの間組合の執行委員、副委員長、書記長等を歴任し、昭和四八年は地連執行委員、昭和四九年は同書記次長も兼ね、昭和五〇年からは組合及び地連の各書記長を兼任している。地連はタクシー会社の運転手で組織する九単組(企業別組合)をもって構成し、その総組合員数は約一、〇〇〇名であり、組合も右単組の一つで、現在の組合員数は八名である。また、地連書記長は、日常的機関活動の統括、地連から各単組に発する指令書の統括、各単組からの活動報告書の処理、単組における紛争の処理、定期大会の基本構想の起草等を職務とするものであるが、これに専従する場合と、必要が生じた期間についてだけ専従する(半専従)場合とがあり、そのいずれの場合も勤務を離れることによって喪失する賃金の補償を地連から受けることができる。そして、右専従か半専従かは、右のとおり賃金補償を伴うものであるので、地連執行委員会において財政事情をみて基本決定をするが、右賃金保障額の予算措置が必要なため、最終的には定期大会において決定されることになる。債権者は、昭和五〇年地連書記長に就任以来、右半専従としてその職務を行ってきたが、債務者と地連または組合との間に、従業員としての地位を保持したまま専ら労働組合活動に従事するいわゆる在籍専従を認める労働協約は締結されていなかったので、従前、地連書記長の職務に専念する必要が生じたときは、欠勤や公休日の振替えなどをしてこれに従事してきたが、そのためにした欠勤は、昭和五二年三月頃まではせいぜい月三日前後であった。

(二) 債務者の就業規則は、従業員の欠勤について、欠勤する場合はその理由と日数を事前に所定届書をもって(もし、その余裕のない場合は電話等により)申出て承認を受けなければならない旨(二五条)定めていたが、実際には、欠勤届が書面をもってなされることは少なく、車両の運行管理責任者であった上田宗春課長補佐(以下「上田」という。)かまたは当直勤務者に対し、欠勤日前かまたはその当日に、口頭で直接あるいは電話等により連絡して欠勤するというのが常態であった。

(三) 債権者は、昭和五二年四月頃から春闘関係の地連業務が繁忙となり、これに専従する必要が生じたので、同年五月一八日上田に対し、地連業務のため同日から同年六月末頃まで欠勤する旨電話で連絡し、同人の了承を得て第一次欠勤をした。そして、債権者は、右欠勤を終え同月二八日から就労したが、その後しばらくして、上田から取締役営業部長の大久保武郎(以下「大久保」という。)の指示があったとして欠勤届書の提出を求められ、これが従前の取扱いと異なるのに不満であったが、上田が、上司との関係で自分の顔を立ててくれ、欠勤理由は労働組合業務だけを挙げるのは会社が嫌がるからどう記載してもよい、とにかく届書を出してくれというので、同年八月三〇日、第一次欠勤期間欠勤したこと及びその理由として「長期保養(公休家事都合、組合業務含ム)」と記載した「欠席届」書を会社に提出した(債権者が右書面を提出したことは当事者間に争いがない)。

(四) その後、債権者は、同年一〇月開催予定の地連定期大会の準備などのため再び長期欠勤の必要が生じたので、同年九月八日、上田に右事情のため欠勤する旨口頭で伝えるとともに、「欠席届」書を会社に提出し(右「欠席届」の提出については、当事者間に争いがない。)同日から欠勤を始めたが、右書面には、欠勤期間として「昭和五二年九月八日ヨリ一〇月三〇日頃迄予定」と、欠勤理由として、危篤状態にある実父の見舞看病、兄嫁の法要のための帰省(九月一八日)、「長期静養(糖尿性アリ)」、「其他一身上自己都合組合業務等含ム」とそれぞれ記載したが、右欠勤理由は、先に上田がなんでもよいと述べていたことから、当時、父の危篤、兄嫁の死亡、健康診断で糖尿病の疑いを指摘されていたこと等の事情があったので記載したものであった。そして、債権者は、専ら地連の書記長業務に従事していたところ、大久保から同月一五日送達の内容証明郵便をもって、右「欠席届」に関し、実父の見舞、看病のために要する欠勤期間の明示、疾病に関する診断書の提出を要求されるとともに、在籍のまま会社の承認を得ずに他の業務に就くことは、就業規則八一条六号所定の懲戒解雇事由「会社の承認を受けず在籍のまま他に就職又は営利を目的とする業務に就いたとき」に該当する旨の警告を受け、これに対し同月二七日付内容証明郵便をもって、欠勤は労働組合の業務のためであり、これは右解雇事由に当らない、欠勤日数については約五〇日間と届出てある、その間欠勤することを改めて届ける旨回答した。ところが、大久保はさらに、同年一〇月三日付内容証明郵便をもって、実父の見舞看病及び兄嫁の法要の時期の明示と診断書の提出を要求するとともに、労働組合業務に就くことは会社の承認を得ずに他の業務につくもので、懲戒解雇または諭旨退職となる旨警告し、一週間以内に就業することを命じ、これに債権者が、同月一一日付内容証明郵便をもって、先になした回答で欠勤を認めてもらいたい旨回答したのに対し、同月二二日付内容証明郵便をもって、診断書の提出を要求するとともに、職務を離れて労働組合業務に就くことは前記就業規則八一条六号に準ずる行為である旨警告し、直ちに就労するよう命令した。しかし、債権者は、大久保の右命令に従わず、引き続き欠勤して地連業務に従事していたが、地連定期大会の開催が予定より遅れたためさらに欠勤を継続する必要が生じ、同月末頃上田に対し、地連業務のため同年末まで欠勤する旨電話で申出、欠勤を続けた。

(五) その後、債権者は、年末一時金闘争をなお継続して越年する傘下組合の出ることが必至の状況にあったこと、また、越年すれば春闘関係の業務が繁忙となること等の事情があって、さらに欠勤を継続する必要があったので、同年一二月二七日、上田から出勤の可否について問い合わせを受けた際、引き続き欠勤することになるが、それについては正月早々に出社して相談する旨答え、昭和五三年一月六日出社して、大久保と面談し、長期間の欠勤を謝罪するとともに、春闘が終了するまで地連業務のため引き続き欠勤したい旨申出たが、同人は、これを承認せず、昭和五二年一二月度の欠勤理由を明確にすること及び直ちに出勤するよう要求した。しかし、債権者は、その後も同年六月二〇日まで欠勤を続けた。

3  ところで、欠勤は、本来、労働契約に基づく労働者の使用者に対する労務提供義務の不履行であるから、賃金債権の不発生や場合によっては労働契約の解約(通常解雇)等債務不履行上の効果を生ずるにとどまり、当然には労働者に対する制裁としての懲戒の対象になるものではない。ただ、労働者が労働契約を通じて使用者の有する労務指揮権に服し、使用者はこれに基づいて生産活動の維持向上のため労働力の有効適切な配置を行うことができるのであって、もし労働者が事前または事後遅滞なく届出もなしに欠勤するようなことがあると、使用者はその補充、配置変更等欠勤者の担当業務に対する有効適切な措置を速やかにとることができず、ひいては業務運営、生産活動を阻害されることにもなるのであるから、この趣旨に基づくかぎりにおいて、欠勤を懲戒の対象とすることが許されるのである。従って、事前または事後遅滞なく欠勤の届出がなされさえすれば、使用者は欠勤によって生ずる業務運営上の支障を回避する措置をとることができ、欠勤を懲戒の対象とする実質的理由はなくなったといえるのであるから、それ以上に使用者が欠勤理由をせんさくし、そのいかんによって欠勤の許否を決しうるものとすることは、右欠勤を懲戒の対象としうる趣旨を逸脱するもので、欠勤理由と密接な関係のある労働者の私生活をも懲戒権の作用に服せしめることにもなりかねず、原則として許されないというべきである。

本件就業規則八一条五号、二五条も以上のところから解釈、適用すべきであり(なお、<証拠略>によれば、債務者の就業規則は、その八〇条二号において「正当な理由なく無断欠勤したとき」を懲戒事由と定め、「無届」欠勤と「無断」欠勤とを明らかに区別している。)、欠勤について適切な時期に日数と一応の理由を示した届出がある場合は、債務者の承諾の有無、欠勤理由のいかんにかかわらず、前記五号の解雇事由には当らないと解すべきである。

4  そこで、前記認定の事実関係に基づき、債権者の欠勤が就業規則八一条五号に該当するかどうかを考えてみる。

(一) 第一次欠勤について

債権者は、右欠勤開始当日、同日から昭和五二年六月末頃まで地連業務従事のため欠勤する旨、車両の運行管理責任者である上田に電話で届出たが、欠勤当日に電話で上田に届出る方法は会社で通常行われていたものであることは前記認定のとおりであり、その欠勤期間も一応特定され、理由も示されているといえるから、右欠勤届は有効なものと認められる。従って、第一次欠勤は右解雇事由に当らない。

(二) 第二次欠勤について

そのうち、昭和五二年九月八日から同年一〇月三一日までの欠勤については、債権者は、右欠勤開始当日、上田に地連業務のため欠勤する旨伝えるとともに、「昭和五二年九月八日ヨリ一〇月三〇日頃迄予定」と記載した「欠席届」を会社に提出していること前記認定のとおりであり、また、同年一一月一日から同年一二月三一日までの欠勤については、債権者は、同年一〇月末頃上田に対し、地連業務のため同年末まで欠勤する旨電話で届出ていることも前記認定のとおりであり、いずれも一応期間の特定がなされているといえるから、右各届出も有効なものと認められる。

次に、昭和五三年一月一日から同年六月二〇日までの欠勤についてみるに、債権者は、昭和五二年一二月二七日、上田に対して、引き続き欠勤することになるがそれにつき新年早々に出社して相談する旨伝え、昭和五三年一月六日出社して、大久保に春闘終了まで欠勤したい旨申出たことは前記認定のとおりであるが、これによっては、一月六日迄の欠勤だけでなく、その後の欠勤についても、欠勤期間(日数)の明示がなく、従って届出としての効力を有しないものといわざるをえない。一月七日以後の欠勤については、(人証略)によれば、地連傘下の労働組合が、例年六月末から七月中旬頃まで春闘を行っていることが認められ、債務者もタクシー会社であることからすれば、債務者は、タクシー労働者の例年の春闘状況を認識し、従って、同年の春闘終了時期をある程度予測できたものと推認できなくはない。しかし、長期欠勤の場合一応の見込期間としてしか届出ようのない場合があるにせよ、それを一方的に使用者の判断に委ねるような形の届出は、期間を示したものに当らないというべきである。

また、債権者が地連書記長としてその業務に専従することは、後述のとおり、債務者の承認なくしては許されず、その承認があったことの疎明もないから、欠勤する正当な理由とはいえない。

以上のとおりであるから、第二次欠勤のうち、昭和五三年一月一日から同年六月二〇日までの欠勤は、前記五号に該当するといわねばならない。

三  就業規則八一条一四号事由

債務者が債権者欠勤中の昭和五二年一〇月三日及び同月二二日の二回にわたり、業務命令をもって債権者に就労を命じたことは、債権者において明らかに争わないからこれを自白したものとみなす。そして、債権者が右各命令に従わず、地連書記長の業務に専念するため欠勤を続けたことは、前記認定のとおりである。

債権者は、組合専従は憲法、労組法等で労働者に保障されている団結権の一内容というべきであるから、債権者が半専従として地連業務に従事するため債務者の業務命令を拒否したことには正当な理由が存在し、この点で債権者の欠勤は右解雇事由に当らない旨主張する。

しかしながら、労働者は、使用者との労働契約を通じて、使用者の労務指揮権に服して労務を提供すべき義務を負っているのであり、憲法二八条及びこれに基づく労組法の各団結権保障規定ないし制度が、団結権行使のために労働契約関係を維持したまま一方的に労働者において労務提供義務を免れることができるということまでその内容としているものと解することは困難である。しかも、本件の場合、債権者は債務者従業員で結成する組合自体の活動として業務を行ったのではなく、その上部団体の役員としての業務を行っていたものであるところ、それが組合の活動と密接な関係があり、事柄によっては組合の活動そのものといいうる場合のあることは否定できないけれども、地連業務は使用者たる債務者の管理、処分権が及ばない事項をも対象としていること、地連書記長の半専従という地位は、その業務に必要があるとき、そのつど期間を定めて専従し、専従の必要がなくなったときは勤務につくというものであって、専従のようにその役員任期によって期間が特定している場合に比し、使用者に長期的観点からする業務運営計画の実現を一層困難にさせるものであるから、なおさら使用者の意思を無視しえないと解される。

従って、殊に本件のような専従者については、その地位は債務者の承認があってはじめて成立するものと解すべきところ、債権者について右承認があったことの疎明はない(これを認める労働協約の締結されていないことは前記認定のとおりであり、また、そのような慣行の存在も疎明されない。)から、債権者が半専従たる地連書記長の業務を行うことは、前記債務者の業務命令を拒否する正当な理由とはならないといわなければならない。

そうすると、債権者が前記債務者の業務命令を拒否した行為は、前記一四号の解雇事由に該当する。

第三本件解雇の効力

一  懲罰委員会の審議

就業規則八二条は、従業員の懲戒を行うには懲罰委員会に対する諮問手続を必要とする旨定めていること、昭和五三年七月七日開催された懲罰委員会において、債権者の本件解雇が決議されたこと、組合の代表者は右懲罰委員会の委員になっていなかったことは、いずれも当事者間に争いがない。

債権者は、組合の代表者が懲罰委員に加わっていなかったことをもって、右懲罰委員会の構成に違法があったから、右懲罰委員会の決議は違法であり、従って、これに基づく本件解雇も無効であると主張する。

しかしながら、(証拠略)によれば、懲戒に関する就業規則八二条に基づいて定められた「協議規定」は、懲罰委員会は委員長である社長と労使双方同数をもって構成し、従業員側委員については、従業員がこれを選出し、その氏名を会社に連絡する旨定めていること、(人証略)によれば、労使双方の委員は各三名であり、本件解雇を決議した前記懲罰委員会の委員は、前記規定に基づいて選出された者であることが、それぞれ疎明される。そして、従業員で組織する労働組合が企業内に存在するからといって、その代表者が当然懲罰委員になるものではなく、その委員は定められた選任規定(就業規則、労働協約等)に従って決定されれば足りるものである。しかるところ、就業規則や労働協約に組合代表者を懲罰委員とする旨の定めがあることの主張、疎明はない。

そうすると、組合の代表者が委員として参加しなかったことは前記懲罰委員会の構成の違法を招来するものではないから、その違法を前提とする債権者の前記主張は理由がない。

二  不当労働行為

債務者は債権者に対し前記業務命令をもって就労を命じた際債権者の行為が就業規則八一条六号(二重就職等)に当る旨警告したことは前記認定のとおりであり、(証拠略)を総合すれば、債務者は、債権者が第二次欠勤後出社した昭和五三年六月二一日から、債権者の再三の就労要求にもかかわらず、債権者に対して配車せず、その就労を拒否して本件解雇に至ったこと、(証拠略)によれば、債務者は、昭和四九年度夏期一時金について、組合を無視し、組合に先だって従業員代表と交渉し、協定書を作成するなどして、組合に対し支配介入行為を行ったことがあったことがそれぞれ疎明される。そして、前記六号の解雇事由は、その文言上、二重就職や営利行為を対象とするものであって、債権者の地連書記長としての職務はこれに当らないことは明らかであるから、これが右解雇事由に当るとする債務者の警告は根拠のないものであり、また、前記本件解雇までの間の就労拒否は、その間債権者が就業規則所定の出勤停止、休職等、債権者が就労しえないなんらかの処分を受けたことの疎明はないから、債権者の就労を拒否したことも根拠のない不当な処置であったといわなければならない。

しかしながら、前記のとおり、債権者は地連書記長の業務に専従することをもって債務者に対する労務提供義務を免れるものではないのであるから、債務者が労務指揮権に基づき債権者に就労を命ずることは正当であって、債権者が右命令を無視して長期間これに従わずに欠勤し、また、そのうち昭和五四年一月一日以後は無届欠勤であり、それぞれ就業規則八一条一四号五号の懲戒解雇事由に当るものであることを考えれば、前記認定の各事実をもってしても本件解雇が不当労働行為に当るものとは認められず、他にこれを認めるに足る疎明はない。

三  解雇権の濫用

(証拠略)によれば、一般にタクシー会社は恒常的に運転手不足の状態にあって、債務者においてもしばしば運転手の募集をしていたこと及び債務者は、債権者の欠勤期間中も、毎月健康保険料及び厚生年金保険料の事業者負担分合計金一万三、八〇〇円を納付していたことが疎明され、これに債権者の欠勤期間等を合わせ考えれば、債権者の前記懲戒解雇事由該当行為が債務者の業務運営に及ぼした支障は決して軽微なものとはいえず、債権者において相当強く非難されてもやむをえないものである。

しかしながら、債務者は、債権者の申出によって、債権者が昭和五三年一月一日以後も欠勤を続けることを予期し、しかもそのおおよその期間を予測しえなくはなかったこと前記認定のとおりであるから、同日以降の欠勤について届出を欠いたこと自体は、それほど重大な義務違反ではなかったということができること、債権者のタクシー運転手という業務は、その性質上他の従業員の職務との関連性に乏しいものであるうえに、債務者が債権者に対して業務命令を発した当時またはその後において、債権者の欠勤(業務命令拒否)が、債務者の業務運営に著しい障害をもたらすおそれが存在しあるいはこれを現実にもたらしたことの疎明はないこと、前記認定事実によれば、債務者が業務命令を発したのは、債権者の地連業務従事が就業規則八一条六号(二重就職等)の懲戒解雇事由に該当すると考えたためと認められるところ、債権者が右命令に従わなかった理由の一つには、右債務者の見解は理由のないものと考えたことがあったと認められること、債務者が昭和五三年六月二一日から本件解雇の日まで債権者の就労を拒否したことは全く根拠のない処置であったこと前記のとおりであるから、債権者は右期間中の賃金債権を失わず、債務者にはその支払義務があるところ、債務者はこれを未だに支払っていない事実に照せば、債権者において右賃金債権を失わないとはいえ、債務者の右就労拒否の処置は就業規則所定の懲戒の一つである出勤停止処分にも準ずるものであったというべきであること、(証拠略)によれば、債権者は、第一次欠勤以降の欠勤期間中、健康保険料及び厚生年金保険料の従業員負担分を毎月会社あるいは上田宛に送金していたことが疎明されること、(人証略)によれば、債務者の運転手の給料や退職金額等は、主に運転手の水揚げ高によって決定され、勤務年数による影響は殆んどないこと、また、一般にタクシー運転手の定着率は低く、会社においても運転手の平均勤続年数は六、七年であるところ、債権者は第一次欠勤まで約一一年間勤続し、その勤務状態も他の運転手に比して特に劣るものではなかったことがそれぞれ疎明されること、さらに、債権者が地連業務に専従することは、業務命令拒否や欠勤に正当性を付与するものでないことは前記のとおりであるけれども、債権者の地連書記長職は、債務者の従業員の一部で組織する組合の意思に基づくものであり、また、その職務は、組合と債務者間の紛争解決をも内容とするものであって、右労使間の秩序形成に寄与する一面も有していること、以上の諸事情を総合考慮すれば、債権者の業務命令違反及び無届欠勤は、債権者を社外に放逐しなければその秩序維持が著しく困難となる程重大なものであったとまでは認め難く、殊に債務者が昭和五三年六月二一日から本件解雇の日まで債権者の就労を拒否した処置が懲戒処分の実質さえ有する面を考えると、本件解雇は、懲戒処分としては重きに過ぎて、著しく処分の相当性を欠くものであり、懲戒権の濫用として無効のものといわなければならない。

そうすると、債権者と債務者間の労働契約はなお存続し、債権者は債務者に対し労働契約上の権利を有する地位にある。

第四賃金債権

債権者は、債務者に対し一か月当り金二〇万九、九〇七円の賃金債権を有する旨主張し、その理由として、申請外大野志郎は債権者と同様会社の平均的従業員であるが、同人の昭和五三年四月から同年七月まで四カ月間の賃金の平均月額は二〇万九、九〇七円である旨主張するが、右主張事実については疎明がない。

しかし、債権者は債務者から毎月二八日、前月二一日から当月二〇日まで一か月分の賃金の支払を受けていたことは、当事者間に争いがなく、右事実に、(証拠略)を総合すれば、債権者は、昭和五二年六月二八日から同年九月七日までの賃金として合計三六万一、八三六円(債務者が本件解雇時に債権者に提供した解雇予告手当117,990円÷30日×実勤務日数52日=361,836円)を債務者から支給されたが、右期間中の実勤務日数は五二日であったことが疎明される。従って、債権者の一勤務日当りの賃金は六、九五八円となるところ、(証拠略)を総合すると、昭和五一年中における債権者の一か月の平均勤務日数は約二二日であること及び債権者は、昭和五三年六月二一日以降は地連業務の繁忙が解消され、昭和五一年中と同程度の勤務が可能な状態となったことが疎明される(その余の賃金に関する債権者主張事実については疎明がない)。そうすると、債権者は債務者に対し、昭和五三年六月二一日以降一か月当り金一五万三、〇七六円(6,958円×22日=153,076円)の賃金債権を有するものと認めるのが相当である。

第五保全の必要性

債権者が債務者から受ける賃金によって生活を維持してきた勤労者であること、債務者は債権者に対し、その従業員たる地位を争い、昭和五三年六月二一日以降の賃金の支払をしないことは、いずれも弁論の全趣旨により明らかであり、本案判決の確定をまっていては債権者は回復し難い損害を受けるおそれがあると認められるから、本件仮処分の必要性は肯定される。

第六結論

以上の次第で、債権者の本件申請中、債権者の地位保全並びに昭和五三年六月二一日から本案判決確定に至るまで、毎月二八日限り月額一五万三、〇七六円の賃金仮払を求める部分は理由があるから認容し、その余は理由がないから却下することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九二条但書を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 竹中省吾)

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